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福岡家庭裁判所 昭和52年(少ハ)4号 決定

少年 Y・H(昭三二・一・二三生)

主文

本件申請を棄却する。

理由

(本件申請の要旨)

少年は、入院以来一級生になるまでは反則行為もなく順調に進級し、精勤賞を受賞するなど更生に意欲をみせていたのであるが、一級生になつてから生活態度に弛緩がみられ、昭和五二年四月二七日不正喫食による院長訓戒、同年七月二三日暴力、ボス類似行為による謹慎二〇日間の処分を受けており、特に後者は、出院を目前にして、当院が特に力を注ぎその根絶を期してきた反則行為を犯したもので、これは少年の安易で場当たり的な性格等から規範意識がまだ希薄であることを示すものである。また、家庭環境は、実母は少年が二歳時に病死しているため実父(配管工)と兄(運転手)との男世帯で、出院後の監督は万全とは言い難い。よつて、少年に対し、生活態度の変容を図るとともに社会復帰に対する心構えを作らせる必要があり、そのためにはなお三か月間の収容継続が必要である。

(当裁判所の判断)

1  少年は、昭和五一年八月二五日鹿児島家庭裁判所名瀬支部において恐喝未遂、傷害、窃盗、業務上過失傷害、道路交通法違反保護事件により中等少年院送致の決定を受けて、即日大島代用少年院に収容され、同年九月三日福岡少年院に移送され、昭和五二年八月二四日をもつて少年院法一一条一項但書による収容期間を満了するものである。

2  ところで、少年の福岡少年院の処遇経過の概況をみると、本件申請の指摘するとおり、少年は、別紙処遇経過記載のとおり一級下に進級するまでは反則行為もなく順調に進級しているところ、昭和五二年四月二七日不正喫食により院長訓戒処分、同年七月二三日暴力・ボス行為により謹慎二〇日の各処分を受けていること、そして、上記の不正喫食は、少年と同郷のA少年が外部から差し入れのあつたお菓子をくれたのでこつそり食べたというものであり、また、暴力・ボス行為は、同年七月中旬ころ、少年が新入生のB少年に対し、(1)嘘をついたことを理由に足を一回蹴つた、(2)同様の理由で団扇の柄で額を一回、頭部を二回軽くたたいた、(3)靴下の洗濯を依頼した、(4)漢字の書取りを二ページさせた、(5)C少年に「くらせ」と言つた(C少年は少年から「くらせ」と言われるとすぐにB少年の頭を一回蹴つている。しかし、少年は本当にC少年が蹴るとは思つていなかつた。)、ということであることが認められる。そして、少年が上記の暴力・ボス行為を行うに至つたのは、B少年が「少年院に入る前はヤクザにいた。」とハッタリをかけたのが嘘であることが判明し他院生の反感を買つていたこと、少年自身も新入生にナメられまいという気持があつたこと等の事情があつたことが窺えるところであるが、少年が友愛の精神を一つのモットーとし暴力行為の根絶に特に力を注いでいた福岡少年院の処遇方針に背き、上記のごとき反則行為を犯すに至つたことは、軽卒のそしりを免れることはできず、したがつて、同院の規定に照らし、なお三か月の収容継続が必要であるとする本件申請も肯じえないところではない。

3  しかしながら、翻つて、上記1記載の、少年が中等少年院送致決定を受けるに至つた非行原因をみると、それは、少年の放縦、気まま、無気力で勤労意欲に乏しい生活態度そのものによること(少年には、少年院収容に至るまでのおよそ一年六か月の間に無為徒食のほか七回の転職がみられる。)が窺えるところであり、少年は、なるほど叙上のとおり一級下に進級するまでは外形的には反則行為を犯すことなく順調に進級し、一級生になつてから反則行為を犯すに至つたのであるが、こと上記の非行原因たる無気力で勤労意欲に乏しい性格、行動傾向に関する限り、一級生になつてから、それまでに較べ格段の矯正教育の効果があらわれてきていることが認められるのであつて、上記反則行為も、少年の叙上の性格、行動傾向と深いかかわりあいを有するものとは思われない。そして、少年が上記反則行為により謹慎二〇日間の処分を受け、単独房で反省日記をつける等自己の非を反省し、更生に意欲を示し、矯正教育の効果がすくなからずあがつている現在の状況に照らすと、少年の更生意欲を信頼し、少年を社会に復帰させ、社会的訓練を受けさせることにより更生の道を歩ませることが、少年の健全な育成のためには最も妥当であると思料される。

4  また、少年の帰住環境は、本件申請の指摘するとおりの男世帯ではあるが、少年と実父及び兄との間には、いずれも島育ちの社会ずれしていない木訥さの故か、強い親和感が窺えるところであり、帰住環境に特段の支障は見受けられない。

5  以上の次第であるから、本件申請を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 萱嶋正之)

別紙

処遇経過

昭和五一年八月二五日 大島代用少年院入院

八月三〇日 鹿児島少年鑑別所仮収容

九月 三日 大島代用少年院より福岡少年院に移送受、考査編入二級下編入

一〇月 一日 農耕科編入

一一月 一日 二級上進級

昭和五二年一月二〇日 少年院法第一一条第一項但書による収容継続(昭和五二年八月二四日まで)

二月 一日 一級下進級

四月 一日 精勤賞受賞

四月二七日 不正喫食、院長訓戒

六月 一日 一級上進級

七月二三日 暴力、ボス行為、謹慎二〇日

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